2014年2月20日木曜日

国が富むほど貧困者が増える不思議高止まりする失業率:

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JB Press 2014.02.20(木)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39975

国が富むほど貧困者が増える不思議高止まりする失業率、
デフレ懸念は深刻化~北欧・福祉社会の光と影(40)

 欧州ではデフレ懸念が深刻化している一方、1月31日に発行されたユーロスタット(欧州連合=EU=統計局)の報告書によると、失業率はユーロ圏17カ国で過去最高のまま、他の欧州国も高率にとどまっている。

 最近のメディア上の経済記事では「欧州は2008年からの経済危機から脱した」という向きもあるようだが、一部統計や生活実感からは、危機から脱したとは到底言えないようだ。

 
http://epp.eurostat.ec.europa.eu/statistics_explained/index.php?title=File:Euro_area_inflation_and_its_main_components,_%28%25%29_February_2012_-_January_2014-e.png&filetimestamp=20140131111923

 失業の増大と収入の減少による消費支出縮小の影響により、物価上昇率は低下し続けている。
 1月のインフレ率は0.7%と過去最低を記録し、欧州中央銀行(ECB)が設定した2%弱というインフレ目標を大きく下回っている。

 2月2日付フィナンシャル・タイムズ紙の「『危機が終わった』との見方も、もはやこれまでだ」という書き出しで始まる記事は、欧州のデフレ危機を予測し、こう書いている*1。

 「多くの新興経済国が危機を深化させていることは、最近のトルコやアルゼンチンの通貨の価値急落で表された。
 危機の深化は、完全なデフレ、すなわち、実質価格の下落に欧州を導く可能性がある」
 「デフレ突入寸前の国にとって、隣国の通貨危機ほど起こってほしくないものはない。
 そして、これはギリシャとキプロスだけではなく、ユーロ圏全体の問題だ」

 
http://epp.eurostat.ec.europa.eu/statistics_explained/index.php?title=File:Unemployment_rates,_seasonally_adjusted,_December_2013.png&filetimestamp=20140130142558

 昨年12月のユーロ圏の失業率は12%と、過去最高を記録し推移している。
 国別ではギリシャ27.8%、スペイン25.8%と、緊縮財政プログラムの対象となっている国で最も高い。
 1年間の上昇率が最も高い国は、キプロス(17.5%)、ギリシャ(27.8%)、オランダ(7.0%)、イタリア(12.7%)である。

■ユーロ圏の失業者数は公式統計よりずっと多い?

 だが、ブルームバーグ・ニュースのリポートは、このユーロスタットの数値は失業者数を大幅に過小評価したものだとしている*2。

 ユーロスタットの失業率は、前の4週間に積極的に仕事を求めていて、次の2週間以内に就業を開始することが可能である人だけがカウントされており、昨年第3四半期の失業者数を1900万人としている。
 ブルームバーグは、ユーロスタットの数字に加えて職探しをあきらめたり仕事にすぐに就業できない人も含めた失業者数を、3120万人と算定している。

 欧州の雇用危機に関して、世界の政財界エリートの経済会議であるダボス会議中にインタビューを受けたアンヘル・グリア経済協力開発機構(OECD)事務局長は、こう言った。

 「問題は、ジョブ、ジョブ、ジョブだ。
 若い世代は非常にイライラし、政治的に爆発寸前で、危険な不安定要因が蔓延している」

 ブルームバーグの記事は、ユーロ圏第3位の経済国イタリアのケースを挙げ、420万の失業者が公式の失業統計に含まれていないとしている。
 この数字を加えると、イタリアの失業率は24%以上と、ほぼ倍増する。

 記事に登場する30歳のジュゼッペ・ディ・ジリオさんは、イタリアの失業統計には含まれない420万人の1人だ。

■「仕事があっても生活できない」

 「私は生き残るために死ににいくような仕事をしたくない」。
 電子工学の学士号を取得しており、ナポリの近くの町で両親と一緒に住んでいるディ・ジリオさんはこう言う。
 彼は生活費を稼ぐためだけの仕事はしたくないと言い、大学院での研究を放棄して以降、求職のための履歴書を一通も送っていない。

 記事内には詳述されていないが、筆者自身が職探しをしていた時の経験では、一定の学歴・職歴を持つ人たちは、例えば「ホテルの清掃係」「バーテンダー」「調理師見習い」という職には応募しようとしない。
 そういうことなのだろうと思う。

 「私の友人たちは、仕事をしてもまだ両親のサポートを必要とし、多くの場合、仕事を始めた人も賃金の支払いを受けていない」
とも彼は言っている。
 「仕事をしても支払いを受けていない」
とは、一体どういうことなのだろう。

 EUの報告書は、イタリアの労働者の12%以上が給料で生活することができないと指摘している。
 これはルーマニア、ギリシャに次いで高い割合だ。

 東欧、南欧の失業率の数字は壊滅的だが、さらに今、明確になりつつあるショッキングな事実は、
 「仕事をしていても給料で生活できない」、
 つまり問題は単に「ジョブ」ではないということだ。

 東欧、南欧のみならず、現在は英国やドイツなどの西欧中核国でも、失業していなくとも「貧困線」以下に陥る人が増えている。
 つまり、失業率が「低い」国でも、人々の生活は壊滅的な状況にあるという事実が明らかになっている。

■ワーキングプアが急増する英国

 ジョセフ・ラウントリー財団の報告書「貧困と社会的疎外のモニタリング2013*3」によると、英国では、2011~12年には1300万人が貧困状態にあり、
 「貧困にある人々の半数以上は勤労者世帯である」
 「これらの家族の大人の3分の2は仕事をしている」
と書いている。

 貧困者の大半が職を得ているにもかかわらず貧困であるのは記録上初めてだ。

 同リポートが指摘する貧困層の増大の原因は、福祉政策の改悪と低賃金労働者の増加、さらに消費財の価格上昇である。
 2002年から2012年の間に、消費者物価指数(CPI)は29%上昇した。
 最大の価格上昇は、光熱費や輸送費、家賃だ。この10年間で、電気、ガス、その他の光熱コストは140%、水道料金は69%上昇した。

 報告書は、現在の貧困統計の「静かな水面」下には「下方向に鋭いシフト」が隠れており、賃金は物価と比較して落下を続け、来年は利益の実質的な価値はさらに落ちるとし、 
 「下方シフトは下方スパイラルになりつつある」
と警告している。

 また英国では、友人と共同で暮らしたり、親元に戻って家族と一緒に暮らす若者が空前の勢いで増えている。
 ホームレスになる若者も多い。

 2012~13年に4529人の若者がホームレスに関する援助を乞うために市民アドバイス局(CAB)に連絡した。
 2008年以来、57%の増加である。同局のレイチェル・ホームズ氏は、 
 「この増加は、景気後退がこの年齢層に与えた影響の非常に明確な指標である」
 「失業や福祉削減が家庭崩壊と、若者のホームレスの主な原因である」
と話している*4。

 ホームレス者を支援するグループ、ナイトストップのシアン・ドレウェリー氏によると、
 「多くの若者が、誰かの家のソファに寝ている。
 ソファが不足したとき、彼らは家の裏庭や公園にテントを張って居住している。
 彼らはそうする以外に方法がない」
と話している*5。

■ドイツでも進む貧富の二極分解

 ドイツでも状況は同じだ。

 共同福祉協会(Paritätischer Gesamtverband)が発表した、「繁栄と貧困の間 2013年ドイツにおける貧困の地域への蔓延」と題した報告書では、
 「ドイツでは貧困は悲惨な高記録に達しており、都市や地域全体が、これまでよりいっそう深い経済的・社会的危機に突入している」
と書いている*6。

 同協会の理事ウルリッヒ・シュナイダー氏は、リポートの公表時に
 「近年のすべての正の傾向が足踏み状態、あるいは逆転している。
 これまでドイツは、今日のように2分割されたことがない」
と発言している。
 「2分割」とは、貧富の二極分解だ。

 報告書は
 「ドイツ連邦共和国の貧困を増大させる非常に明確なパターンがある。2006年から2012年にかけて、貧困は14%から拡大し15.2%のピークに達した。この傾向は、2010年にはわずかに鈍化したが、停止せず成長を続けている」
とし、ドイツ政府は貧困は2005年以来、堅調に推移あるいは減少していると主張しているが、リポートは、これは事実と矛盾すると指摘している。




 また、報告書は、ここ数年のわずかな景気回復と失業率の低下は、働く人々の社会的状況にプラスの影響があったとする政府の公式見解が虚構であるとしている。
 報告書は、これは全く逆のケースであるとし、
  「貧困の拡大は、データによると、かなりの中期的な上昇トレンド(とともに)経済発展から・・・デカップリングされている」
と書いている。

 また、経済発展と貧困の間の相関についてこう書いている。

 「2011年に、ドイツ経済は実質ベースで3.9%成長し、さらに失業が低下したが、貧困率は14.5%から15.1%に上昇した。
 経済成長が実質ベースでわずか0.9%の伸びにとどまり、失業率が一定であった2012年に、貧困率はさらに0.1%上昇している」

 グラフからも明らかなように、ドイツの国内総生産(GDP)の拡大とともに、貧困率も上昇している。





 端的に言うと、国が富むのに従い、国内の貧困者が増える、という構造のようだ。

 上記のグラフでも、失業率が下がるのに伴い、貧困率が上がっていることが分かる。

 言い換えれば、株価ブームの利益が一部の富裕層や金融機関などのビジネスエリートに入っている間、新規に創出された雇用は低賃金労働であるということだ。
 つまり、経済の好況に伴って搾取と貧困が増加しているということになる。

 報告書は、これは
 「紛れもなく、低賃金の不安定雇用の増加を示唆している。
 労働市場政策における統計的な成功は、労働市場のアメリカ化、『ワーキングプア』の現象を犠牲にして実現されていることは明らかである」
と述べている。

 また、ドイツの16の連邦州のうち11州が、前年度に比べて数字の悪化を記録し貧困が増大している一方、全体として「リッチ」と「貧困」間のギャップが拡大しており、
 「貧困地域の事態がますます悪化し、豊かな地域では常に良くなっている」
と結論している。
 このことを同報告書は「ドイツの社会的および地域的『遠心力』が拡大している」と表現している。

 また報告書は、2011年の貧困報告書で「ドイツの特別な貧困領域として最初に確認された」ルール地方の状況を詳述している。
 ルールでは「貧困が無制限に拡大して」おり、2006年以来、500万人以上の人口を抱えるルールでの貧困は年平均0.6%で増加し、2012年には19.2%に達している。

 かつての一大工業地帯ルールの住民の約5人に1人が「貧困者」なのだ。


■危機から抜け出すどころか、ますます泥沼の深みに

 最も貧困の影響を受けたのはドルトムントとデュイスブルクの都市で、貧困率はそれぞれ26.4%、25.1%であり、
 「ドルトムントの貧困率は2005年以来42%、デュイスブルクでは約48%増加した」
 「地域全体が劇的な下方スパイラルに向かっているか、すでに陥っている」
という。

 さらに同協会は、今後数年間に劇的に状況が悪化することを予測している。
 2020年以降、「債務上限制度」が適用され、すべての連邦州が新規融資を受けることを禁止される。
 これにより州自治体が大規模な支出削減を行うことになり、すでに貧困に苦しんでいる地域の状況を特に悪化させることが予想される。

 また、州間の財政調整・移転のシステムは2019年に失効する。
 「財政的に弱い州が過去に比べて低い交付金を受けた場合、既に不安定な財政状況はさらに悪化するだろう」
 「繁栄と貧困地域間の財政的に強い州と弱い州の間の亀裂がさらに深まるだろう」
と、リポートは警告している。

 欧州経済は、危機から抜け出すどころか、ますます泥沼の深みに陥っていくようだ。

*1=http://www.ft.com/intl/cms/s/0/58bfa7ec-89e9-11e3-abc4-00144feab7de.html#axzz2tIviQfkZ
*2=http://www.bloomberg.com/news/2014-01-27/euro-jobless-record-seen-in-legacy-of-italians-giving-up.html
*3=http://www.jrf.org.uk/sites/files/jrf/MPSE2013.pdf
*4=http://www.bbc.co.uk/newsbeat/25930493
*5=http://www.gloucestershireecho.co.uk/Benefit-changes-forcing-young-people-streets/story-20545381-detail/story.html
*6=http://www.der-paritaetische.de/index.php?eID=tx_nawsecuredl&u=0&g=0&t=1393193779&hash=7caf0e92c85f9a2f8b5023ac6777bf382c1b26ce&file=fileadmin/dokumente/2013_armutsbericht/A4_armutsbericht-2013_web.pdf

 みゆき ポアチャ 在スウェーデンのジャーナリスト
埼玉県生まれ。1996年スウェーデン・ヨーテボリ大学で日本語教師、1997年ロンドン・スクール・オブ・ジャーナリズム基礎コース終了、2004年スウェーデン・ルンド大学大学院経済学修士課程終了。スウェーデン中西部のボロースでスウェーデン人の夫、子供3人と在住。共著『「スウェーデン・モデル」は有効か―持続可能な社会へむけて』(2012年、ノルディック出版)。