2014年2月20日木曜日

無視すると高くつく壊滅的な気候変動のリスク:リスクに基づくアプローチを採用せよ

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●イングランドやカリフォルニアでの極端な気候で、再び気候温暖化が議論されている(写真はイングランド南東部ダチェットで洪水に襲われた住宅街)〔AFPBB News〕

2014.02.20(木)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39991

無視すると高くつく壊滅的な気候変動のリスク
(2014年2月19日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 5年前の壊滅的な金融危機によって世界経済が景気後退に陥った後、世間では、サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)の価値評価を行う際に想定に誤りのある複雑なモデルを用いていたとの理由で金融経済学者が批判された。

 この間違いはわずか数年で表面化し、激烈な被害をもたらした。
 しかし、実はこれをはるかに上回る脅威――気候変動――の経済モデルにも同様な欠陥が潜んでおり、我々を襲う危険が過小評価される事態になっている。

■経済的影響を甘く見る気候変動モデル

 イングランドの洪水やカリフォルニアの干ばつを受けて、これは気候変動のせいなのか否かという不毛な議論がまた始まった。

 しかし、かつて債務担保証券(CDO)のモデルがデフォルト(債務不履行)など起こるはずがないとほぼ想定してしまっていたように、
 気候変動の経済モデルも、地球温暖化がどれほどひどくなっても気候変動が経済に壊滅的な打撃を及ぼすことはないとほぼ想定してしまっている。

 経済学者たちは、脅威を過大評価するどころか過小評価することが多いのだ。

 あの金融危機のこと、そして極端な気候変動が生じるリスクが小さいながらも現実に存在することを示す科学的な証拠が増えていることを考え合わせれば、我々が今後進むべき道は明らかだ。

 我々は、不可知の事象の対価を正確に計測することに取り組むのではなく、発生する確率は不明だがぞっとするほど大きなコストをもたらすカタストロフ(大変動)について考え、それに対する保険をかけるにはどんな代償を払えばよいかを検討すべきなのだ。
 そうした方が、停滞している二酸化炭素排出対策をもっと楽に促進できるかもしれない。

 学界は既存のモデルに非常に厳しい評価を下している*1。
 例えばニコラス・スターン氏は、気候変動のいわゆる統合評価モデル(IAM)は
 「影響とコストは穏当なものになると即座に想定しているに近く、
 壊滅的な事態になる可能性を排除しているに近い
と記している。

 またマサチューセッツ工科大学(MIT)のロバート・ピンディク氏によれば、
 「ほとんどのIAMのダメージ関数は理論や観察による根拠のない完全な創作である。
 それがここでの結論だ
という。

*1=‘How should we model climate change?’, Journal of Economic Literature, September 2013

 これらのモデルを軽視することはできない。
 米国のオバマ政権が石炭の規制に当たって用いている、二酸化炭素の社会的費用は1トン当たり36ドルだという推計の背景にあるのはこれらのモデルだからだ。

 確かに、モデルが何もないよりはましだ。
 また、世界が気候変動を無視するのであれば、これを上回る推計値が出ても大きな影響がすぐに及ぶことにはならないだろう。
 ロビイストたちは既に、36ドルは高すぎると訴えるために列をなしている。

■金融危機の教訓

 しかし、先の金融危機で得られた教訓ははっきりしている。
 経済学者はこの問題をありのままに語るよう努めるべきだ。
 そのうえで、愚か者や与太者、政治家などが何も手を打たないことを一生懸命に正当化しようとするのであれば、好きにさせておけばいい。
 地球温暖化の代償を軽視する者は、いずれ歴史から厳しい裁きを受けることになるだろう。

 経済モデルが不完全であることは避けられない。
 そもそも、データの供給元である気候モデルよりもデータを受け取る経済モデルの方が正確になるということはない。
 これから生まれる将来の世代の暮らしを改善するために現代の我々はどれほどの犠牲を払うべきかという点については、しっかりした根拠のある議論もある。

 だが、そこでなされている、気候の温暖化が進んでも国内総生産(GDP)には穏当な影響しか及ばないという実に楽観的な想定には、それほどの根拠はない。

 この想定はいろいろな形で効いてくる。
 ほとんどのモデルにおいて、気候変動による経済成長の大幅な鈍化は起こり得ないことになっている。
 GDPは拡大し続け、そこからダメージを差し引くという計算方法なのだ。
 そのダメージは、気候がどれだけ温暖化するかによって決まる。
 しかし、問題は、 
 GDPは複利でどんどん成長するため、気候変動によるダメージをほぼ自動的に上回るということだ。

 例えば、世界経済が今後100年間、年率2%のペースで成長する場合、世界経済の規模は7倍以上に拡大する。
 気候変動によるダメージでその半分が失われると予想されるとしても、世界経済はまだ今の3.5倍大きいことになるのだ。
 この問題については、一部の経済学者が取り組んでいるように、気候変動が経済成長率に影響を及ぼすようにするというアプローチが考えられるだろう。

 損害の試算が穏当になる傾向があるのは、これらのモデルは小規模な変動の実証研究に基づき、最初の数度の温暖化を想定して築かれているからだ。
 住宅価格の小幅な下落に対する経済の回復力の分析のようなものである。
 こうしたモデルを気候変動の極端なケース(現在の炭素排出の軌道からして、あり得るケース)に当てはめると、馬鹿げた結果が出たりする。

 例えば、摂氏20度相当の温暖化でGDP比50%超の損害を想定している標準的なモデルは1つしかない。
 ここに将来は経済が今の何倍にも拡大しているという前提を加えると、問題ははっきり分かるだろう。
 あなたの孫たちはロンドンの地下鉄で茹で上がっているかもしれないが、こうした経済モデルは孫たちを死んだと見なすのではなく、あなた方より豊かだと見なすのだ。

 話はここで終わらない。
 大半のモデルがこのような試算を弾き出す理由は、温暖化の極端なケースをほとんど考慮に入れないからだ。
 一連のモデルは気候変動を所与のものとして受け止め、それを経済的影響と今日の炭素価格に転換する。
 例えば、推定が2度の温暖化だとすれば、これに基づき炭素に値段をつける。

 これはちょうど、すべての住宅ローンが同時にデフォルトする可能性を無視したサブプライム時代の分析のようなものだ。

リスクに基づくアプローチを採用せよ

 それより優れたアプローチは、カタストロフのリスクに焦点を合わせ、新たに情報が出てくるに従い、モデルを更新することかもしれない。
 前出のピンディク教授は、アナリストらが熱核戦争がもたらす結果を検討した冷戦時代との類似を引き合いに出す。
 当時は、軍縮協定について交渉する際にそうした分析結果が利用された。

 金融危機の後、世界は、新たなメルトダウンが起きる確率とそれがもたらすダメージを試算するために極端に複雑なモデルを構築しなかった。
 政策立案者らは単に、米ドッド・フランク法などの規制は危機再来を防ぐための小さな代償にすぎないことを認めただけだった。
 今度は、金融危機よりも大きな気候変動の問題に対して、似たようなリスクに基づくアプローチを採用すべきだ。

By Robin Harding
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